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- 主な活動地域
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東京都 全域
- 最近の防災・減災活動
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生年月日:1956年
出身地:秋田県男鹿市
最近の防災・減災活動:「誰一人取り残さない」防災の研究、実践活動。
内閣官房「人・コミュニティ・地域のレジリエンス向上のための研究会」座長。ほか内閣府、国土交通省・厚生労働省、経済産業省、自治体の防災関係委員会座長など。
著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』『ひな型でつくる福祉防災計画』(編著)など。
あなたにとって、東日本大震災とはなんですか?
3月11日夕方、中山道には見たことがないほど大勢の徒歩帰宅者が歩いていました。私は板橋区の地域振興課長だったので、18の地域センター長に連絡して、トイレや休憩、宿泊場所を避難場所として提供するために空けてもらいました。
翌日だったか、大槌湾に500名の子どもの遺体が浮かんでいるというフェイクニュースが流れた時に、釜石東中学校の生徒たちを思い浮かべました。震災の2週間前に防災教育チャレンジプランで、鵜住居小学校の児童と一緒に避難訓練をした話を聞いて、「本番できっと役立つ素晴らしい防災学習」と講評したからだと思います。実際には、中学生が素晴らしい避難行動を実践したことを聞き、防災教育の効果を実感しました。
多くの高齢者、障がい者等が亡くなったり、厳しい避難生活を余儀なくされていることが、報道や現場に入ったボランティアから伝えられました。また、被災地の自治体職員が十分な支援を受けられず、自らが被災者でありながら不眠不休で働いている状況も伝えられました。あらゆる伝手を使って、被災自治体と支援自治体とのマッチング(対口支援)を求めましたが、当時の総務大臣は動いてくれませんでした。
その結果、板橋区が大船渡市に支援に入れたのは1か月以上たった4月20日になってしまいました。それまでの自治体職員としての取組み、国の避難支援検討会での議論や職員研修が、全くゆるいものだったと思い知らされました。
社会にとって、東日本大震災はどういう課題を残し、それはどれだけ解決したと思いますか?
「自分一人では逃げることが困難な高齢者や障がい者等を、いかに地域社会が守るか」が課題だと思います。
支援者の命も数多く失われました。地域住民の善意とともに、日常から支援している福祉専門職の関与が重要だと主張し続けました。今年度の災害対策基本法の改正により、個別避難計画作成は市区町村の努力義務となり、福祉専門職、地域住民、市区町村がモデル事業を実施することとなりました。課題は多いですが、大きな一歩だと考えています。
また、被災自治体の支援については、その後の熊本地震、また幾多の豪雨災害を経て、市区町村同士の防災協定等の増加、総務省、全国知事会、市長会・町村会の積極的な対口支援の調整、災害マネジメント支援員の派遣などが行われるようになりました。各省庁も、現地災害対策本部に常駐したり、プッシュ型支援を行ったりと積極的な関与をしています。
残された課題の解決のために、社会には何が求められるとお考えですか。そのために、あなたはこれから何をされていきますか。
災害対策基本法(1962年施行)の目的は「国土及び国民の生命、身体及び財産を災害から保護する」です。これはジョン・ロックが基本的人権として挙げた「生命、自由、財産」を言い換えたと推測しています。法制定当時は、災害時に「自由」までは守れないので「身体」としたのかもしれません。
自由という価値観は、もちろん重要です。ただ、近年は自由を十分に享受できるのは一定の豊かさ、健康な者というイメージがあることから、「尊厳」が基本的人権にふさわしい用語と考えています。事実、介護保険法(2000年施行)では、その目的が「(要介護等)の者が尊厳を保持し、 その有する能力に応じ自立した日常生活を営む・・」とあり、障害者総合支援法(2013年施行)では、「(障害者及び障害児が・・・)尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営む」となっています。たとえば、災害時に発生する次のようなことは、人の尊厳を守っているでしょうか?
・高齢者の逃げ遅れ・関連死が多い
・障がい児者が安心して避難できない
・授乳時には人にジロジロ見られる
尊厳をキーワードに考えることで、誰一人取り残さない防災の実現に近づいていきます。TEAM防災ジャパンの同志とともに、災害対策基本法の目的を「国民の生命、尊厳、財産を災害から保護する」に変えていきたいですね。
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