リレー寄稿
地域防災の担い手をご紹介
【関東大震災100年】矢守克也(やもりかつや)
京都大学防災研究所 教授
- 主な活動地域
- 高知県 黒潮町
- 最近の防災・減災活動
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2023年10月 高知県 黒潮町 避難訓練支援アプリ「逃げトレ」と避難戦略検討支援ツール「逃げトレView」の制作
https://nigetore.jp/
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関東大震災から100年経ちましたが、教訓として伝わっていると考えられることはなんですか?
寺田寅彦先生が大震災後に随想「天災と国防」に記していることが、今でも重要です。「文明が進むに従って人間は次第に自然を征服しようとする野心を生じた。…(中略)…そうして天晴れ自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のように、自然が暴れ出して高楼を倒潰せしめ堤防を崩壊させて人命を危うくし財産を滅ぼす」。人間の油断・過信が災害の真因だというわけです。さらに、今、巨大台風による被害など気候変動に起因する災害に対する人間活動の影響は、もはや動かしがたい事実です。災害は私たちを外側から襲ってくるのではありません。私たち自身が、災害を作っているのです。いま、関東大震災級の地震が起きたら、心配なこと、解決していないと思う課題はなんですか?
100年前になく今あることはいくらでも指摘できます。クルマもエアコンもパソコンもネットも…。でも、そんな人間・社会の激変ぶりとは無関係に、地震や津波は、100年前とまったく同様に今も起きるというあたりまえのことが十分認識されていないことが最大の課題とも言えます。再び寺田寅彦先生の言葉を随想「津波と人間」からお借りします。「自然は過去の習慣に忠実である。地震や津浪は新思潮の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十世紀にもまったく同じように行われるのである」。関東大震災からの100年に学び、子孫たちに何をどう伝えていくか、考えていることをお聞かせ下さい。
今、100年前を思い起こすことは、逆に、この時点から100年後について想像するためのよい機会になります。目先の経済性や利便性に目がくらんで、必要なインフラのメンテナンスより目新しい施設の新設に今躍起になっていること、また、「暑すぎる、なんとかしろ」などと、猛暑を他人(自然)のせいにして、私たち自身の振る舞いが災いの元凶であることに目を閉ざしがちであること、こうしたことが100年後(子孫たち)にどれだけの災いをもたらすか。その自覚をもつことが、真に100年前に学ぶことだと考えます。矢守克也さんのこれまでの寄稿はこちら