リレー寄稿
地域防災の担い手をご紹介
【能登地震】鍵屋一(かぎやはじめ)
跡見学園女子大学観光コミュニティ学部まちづくり学科・教授
- 主な活動地域
- 石川県 輪島市
現時点で、能登半島地震の(事前及び事後の)対応で良かったこと、今からでも改善されたら良いと考えること、そして、それらの理由を教えてください。
対口支援により、2日後には応援職員が被災地に入るなど、これまでにない迅速な初動がとられた。1月15日時点で石川県の14市町に42都道府県・政令市が職員698名が派遣された。被災市区町村が行う災害マネジメントを支援するため「総括支援チーム」が調整役として、被災自治体との窓口となり、他の対口支援自治体は総括支援チームと連携して業務を行う。派遣された職員の業務は 、避難所の運営、物資の管理、被害家屋認定調査、罹災証明書の発行、仮設住宅の建設・ 入居手続き、災害廃棄物処理など多岐にわたる。もし、対口支援がなかったら、被災者支援は格段に遅れていたに違いない。
ただ、被災自治体職員は長時間で過酷な業務に従事し、派遣された職員は宿所や生活環境の確保、業務のミスマッチ、など課題もある。
自治体職員だけでは大被害の対策は困難であり、官民をあげて支援力を強化する仕組みづくりが求められる。
能登半島地震から、今後の日本が学ぶべきこと、御自身の活動分野で改善が求められることは、どんなことですか?
地震被害を減らす決め手は耐震化だ。2018年「住宅・土地統計調査」によると、1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅の割合は珠洲市で65%、能登町で61%、輪島市で56%だった。全国平均は29%である。耐震性が不十分だったことが多くの直接死、関連死を生み、過酷な避難生活につながった。一般的に、住宅耐震化には一定の自己負担が必要であり、年齢や困窮度などの考慮が働かない。耐震化は個人責任という、個人モデルにとどまり、自己負担能力のある者には補助金が入って耐震化ができるのに、高齢や低所得で自己負担能力が低い方は耐震化ができずに放置される。これは公正だろうか。一方で、2024年1月時点で高知県は耐震化率が88%に上る。その理由は耐震化工法の工夫や公的支援により自己負担を抑えているからだ。およそ4割は自己負担が10万円未満、7割近くは30万円未満である。耐震化は個人モデルから社会モデルととらえ、公費を大胆に投入して耐震化を進めるべきである。
これからの能登半島が、どのように復興していくことを期待されますか?そこに、御自身はどのように関わる予定ですか?
能登は素晴らしい景観、豊かな地域文化があり、何よりも人々のつながりが強い。私は男鹿半島生まれだが、能登は男鹿に比べて観光、文化など多くの面でスケールが大きい。今回の地震ではコミュニティがセーフティーネットとして高齢者等の命を守っていた。多くの自主避難所ができて、一人暮らしの高齢者を放っておかず地域みんなで守ってきた。コミュニティのつながりがなければどれほどの方が命を落としたかわからない。これは、つながりの弱い大都市での災害への大きな教訓だ。今後も、人々のつながりが強く、地域文化が花咲く地域であってほしいと願っている。そのために、文化、観光、教育、医療・福祉などソフト面での秀でた取組みを支援し、多くの交流住民がやってくるまちを目指してほしい。孔子は「遠者来、近者説」(遠き者来たり、近き者よろこぶ)まちを優れたものとして称えた。私たちも、この過酷な地震災害を乗り越えられるよう、ご縁を大切にしながら通う決意である。鍵屋一さんのこれまでの寄稿はこちら