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「地区防災フォーラム2021」レポート

内閣府は、令和3年2月14日(日)に「地区防災計画フォーラム2021」を開催しました。

昨年は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、熊本会場での開催予定がやむを得ず中止となりましたが、今回はオンラインによる開催となり、全国からたくさんの方が参加されました(主催:内閣府、共催:熊本県・熊本市)。
フォーラムでは、近年の災害を経験した地域での地区防災計画の取り組みから、計画作成の「主体」、「支援者」のあり方を考えるとともに、地区防災計画の取組みを通した、災害に強く、絆の太い日頃からのコミュニティづくりについて幅広く話し合われました。

この度はその模様を、各自治体での事例紹介や、後半に行われたパネルディスカッションを中心にご紹介します。


<開会挨拶>
開会に先立ち、小此木八郎内閣府特命担当大臣(防災)と、蒲島郁夫熊本県知事、大西一史熊本市長よりご挨拶の後、内閣府防災普及啓発・連携担当の中尾晃史参事官から『防災からはじまるコミュニティづくりに向けた地区防災計画の活用』についての講演がありました。


<セッション1 事例紹介> 『災害経験地からの地域防災の取組』

モデレータ:加藤孝明 東京大学生産技術研究所教授
パネリスト:松藤茂智 熊本県荒尾市危機管理防災室長
     吉住洋三 熊本県熊本市秋津校区防災連絡会事務局長
     竹内裕希子 熊本大学大学院先端科学研究部准教授

事例紹介では、熊本県の自治体、地区防災連絡会、大学と異なる三つの団体から熊本地震や昨年の豪雨災害の教訓を活かした、地区防災計画の取り組みの発表がなされました。

熊本市秋津校区防災連絡会の吉住洋三事務局長からは「校区防災連絡会の認知度が低いことが課題。かなりの高齢者がいるなかで『情報提供』を幅広くやっていきたい。現在、『秋津防災』という広報紙を回覧することで情報発信を強化しており、住民の方々に把握していただきたい。」と報告がありました。
視聴者の中からは、チャット機能を通じて、地区防災に携わる若い世代からも「地区防災活動をしたい」という意見が多く挙がっていました。

熊本大学大学院先端科学研究部の竹内裕希子准教授は、「これまでの取り組みから得られた横展開の方法については2つあると考えている。1つ目は私のような「支援者」を通じた横展開。2つ目は今回のモデルであった向山校区自体が『コミュニティ同士の視点』で相互に横に広めていくような方法である。」とし、経験や視点をみんなで共有することで防災意識や知識が展開していく方法もあるとの見解が示されました。

豪雨災害における活動での教訓としては、荒尾市の松藤茂智危機管理防災室長から「被災地の自主防災組織が自主防災計画をまさに作成中であったため、実用的な防災マップを実際に活用して行動することができたことが良かった」と、行政が議論の場等を設定し、防災情報の理解や重要ポイントの助言など、スタートアップを整えれば、その後の運営は地区を中心に円滑に進むという事例が示されました。

最後に、モデレータの東京大学生産技術研究所の加藤孝明教授(以下 :加藤教授)は発表の中で『ついで防災』というワードが挙がったが、地区防災においてはとても重要な考え方だとし、地域の資源 が高齢化等に伴って減退してくる中で、各種イベントやそれぞれの活動を一緒になって行うことが今後の防災力強化にも繋がると語りました。


<セッション2 パネルディスカッション> 『災害を経験した地区における地区防災の主体の取組、その支援者の役割』

モデレータ:加藤孝明 東京大学生産技術研究所教授
コメンテーター:鍵屋 一 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授
パネリスト:蔭原政徳愛媛県松山市高浜地区自主防災連合会長
      岡崎進一 岡山県危機管理課総括副参事
      板波智太郎 福岡県朝倉市総務部防災交通課消防防災係長
      竹内裕希子 熊本大学大学院先端科学研究部准教授
      李泰榮 防災科学技術研究所災害過程研究部門主任研究員

パネルディスカッションでは、はじめに加藤教授から岡山県での取組みについて、「地区防災計画推進の取組みにおいて、特に防災と福祉との連携について、県が積極的に市町村に関わって進めている。この活動に対する対象市町村以外での盛り上がりについてはどうか」と問われました。

岡山 県危機管理課の岡崎進一総括副参事は、「『要配慮 者対応 』については、平成30年7月豪雨災害にて自宅で多くの高齢者が 亡くなっていることがきっかけとなっている。対象市町村以外の職員や防災士の方の参加も見て取れるため、徐々に盛り上がってきていると感じている。」と話しました。加藤教授は、県が「防災と福祉との連携」を踏まえた地区防災計画の推進に、 積極的に全ての市町村 に関わっている良いモデルケースであることを評価しました。また、被災経験を活かした地区防災計画づくりにおいて、昨今の中学生が計画を作るなどの活動について、防災科学技術研究所災害過程研究部門の李主任研究員は「非常に学校側のモ チベ ーションが高かった。放課後の時間を活用した取り組みもされており、その際に紙媒体による情報発信だけでなく、デジタル化による発信について取り組みを進める等の成果も出ている」と、平成29年7月の九州北部豪雨での被災経験を次に活かすための学生による『ナレッジマネジメント』の事例を挙げました。

松山市高浜地区自主防災連合会の蔭原政徳会長からは、一人の要配慮者に対して、調査 ・安否確認にどれだけ時間がかかるかが課題になっているとの話があり、鍵屋 教授からは、協力者を見つけるのは難しい現状があるが、『協力をしたい』と考えている方は多い。日頃から地域のいろんなコミュニティから募っていくことが必要との見解が示されました。更に加藤教授は、おそらく高浜地区などは地域内での独特なチャンネルがあると思うが、それでもなお取り残されてしまう方に対しての行政の役割が併せて重要と話されました。これに 朝倉市総務部防災交通課の板波係長からは、地域によっては高齢者ばかりで共助による避難には限界があることから、消防団と連携した要支援者名簿の整理を行う取り組みが紹介されましたが、発災時にどこまで行政が支援できるのかという課題についても話されました。

パネルディスカッションの締めくくりに、鍵屋教授は「地区防災計画作成のためには愛と科学が必要。そして胃袋をつかむこと。会議で美味しいお茶菓子などを出して気軽 にご参加いただける会が開かれていくとよい」と、地区防災では誰でも地区のコミュニティに参加できるような受け入れ態勢づくりが必要だと語り、議論の熱が冷めやらぬまま閉会を迎えました。


<しめくくり>

加藤教授は「たくさんの地域での経験を共有して次に活かしていくことがとても重要であり、このフォーラムのような場が、その活動のた めの一助となればとよいと思う」と締めくくりました。