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「オフラインミーティングin湘南」レポート

TEAM防災ジャパンは、平成31年2月2日(土)に「オフラインミーティングin湘南」を開催しました。(主催:内閣府、共催:茅ヶ崎市)

多様な領域、多世代の防災の担い手をつなぎ、異なる視点を持つ人が一緒にワークすることで“化学反応”を起こす、ということを目的として、全国から約100名の方が湘南の地に集いました。
当日は、午前中に武村雅之先生(名古屋大学)のガイドによる「茅ヶ崎まち歩きツアー」が実施され、午後に茅ヶ崎市コミュニティホールにてオフラインミーティングが開催されました。
内閣府(防災担当)佐谷説子参事官と茅ヶ崎市大野木英夫都市部長による開会挨拶にはじまり、会の前半では、加藤孝明先生(東京大学)、山本俊哉先生(明治大学)のお二人による基調講演や、神奈川県、茅ヶ崎市、県内のボランティア団体による活動報告が行われました。
その後、会の後半では、「起こそう!防災×化学反応」と題したワークショップを実施し、日頃取り組んでいる防災活動をさらに活性化させるための方法等について、参加者による議論がなされました。
当日参加者の方々からいただいた様々なご意見は、最後に「湘南宣言」として取りまとめられました。
本記事では、当日の各プログラムの詳細について、ご紹介します。


<茅ヶ崎まち歩きツアー(名古屋大学減災連携研究センター教授:武村雅之先生)>

武村先生ツアー

茅ヶ崎まち歩きツアーは、当日の午前11時に茅ヶ崎市役所前を出発し、計26名が参加しました。
ツアーガイドは、関東大震災の調査研究が専門である名古屋大学の武村先生が務められ、茅ヶ崎市内の震災遺構として松尾大神、旧相模川橋脚、熊野神社の3か所を回り、茅ヶ崎市の土地形成の歴史や石碑に込められた先人の想いについて、解説していただきました。
武村先生の長年のフィールドワークに基づく詳細な解説に、参加様の方々は熱心に耳を傾けていました。

熊野神社の石碑には、「地震のような天災は人の力ではどうにもできないが、災禍の範囲や程度を小さくすること、さらには救済の道を事前に考え、災害時に実行することは人の力でできる」ということが教訓として刻まれており、現在の「防災・減災」につながる考えに、参加者は感銘を受けた様子でした。


<開会挨拶(内閣府(防災担当):佐谷説子参事官、茅ヶ崎市:大野木英夫都市部長)>

午後のオフラインミーティングの開会に先立ち、主催者である内閣府(防災担当)の佐谷説子参事官からご挨拶がなされました。佐谷参事官からは、住民が災害時に適切に避難できるようにするためには、「地域の防災リーダー」のもと、避難計画の策定や避難訓練等を行い、地域の防災力を高めることが重要である旨が伝えられました。また、地域の防災リーダーがそれぞれ得意なことを持ち寄って、協力することが必要であると同時に、リーダーに続く、フォロワーの存在も不可欠であると語られました。

共催者である茅ヶ崎市の大野木英夫都市部長からもご挨拶がなされ、茅ヶ崎市において大規模な延焼運命共同体の存在が判明し、そのことを踏まえた防災まちづくりワークショップ等を実施してきた経緯について説明されました。また、茅ヶ崎市の防災活動を活性化するヒントを得たいと、本イベントに対する期待が語られました。


<基調講演①「湘南で発見しよう!防災×化学反応」(東京大学生産技術研究所准教授:加藤孝明先生)>

基調講演①として、「湘南で発見しよう!防災×化学反応」をテーマに、東京大学の加藤先生にご講演いただきました。

防災まちづくりの取組を推進する“ツボ”として、①取組は「市民先行・行政後追い」の形が望ましいこと、②自然災害リスクは、住民が咀嚼し、再解釈することで主観的に作り出すものであること、③自助・共助・公助のあるべき姿を考え、相互がそれぞれの役割を自覚することが重要である、という3つが紹介されました。

また、防災を入口・きっかけとして、地域社会の課題に総合的にアプローチすることが重要であるとして、徳島県美波町や伊豆市土肥地区の取組が好事例として挙げられました。同時に、防災に特化した専門家との連携の重要性についても指摘がなされ、多様なメンバーで経験の共有を行うことで、前向きな「化学反応」を起こして欲しいとお話しいただきました。


<基調講演②「防災活動をもっと元気に!」(明治大学理工学部建築学科:山本俊哉先生)>

基調講演②では、「防災活動をもっと元気に!」をテーマに、従来の枠組みを超えた連携の実践例について、明治大学の山本先生にご講演いただきました。

講演の中では、防災まちづくりのメッカである、東京都墨田区向島に住民主導で設置された防火水槽「路地尊」や、子どもとともに楽しく防災訓練を実施する「イザ!カエルキャラバン」、高齢者による子どもの見守り運動からPTAによる災害時避難ワークショップへと活動が広がった「旭川市近文あい運動」等の活動が紹介されました。

また、ハザードマップを他人事から自分事に変える「逃げ地図づくり」の取組についても、ご紹介いただきました。


<各団体からの報告(神奈川県、茅ヶ崎市、横浜・栄防災ボランティアネットワーク)>

続いて、神奈川県、茅ヶ崎市、横浜・栄防災ボランティアネットワークの三者より、防災の取組について活動報告がなされました。

神奈川県からは、県、社会福祉協議会、ボランティアネットワークが一体となって運営している「神奈川県災害救援ボランティア支援センター」や、多分野の防災の担い手が集まる「防災塾・だるま」、「かながわ人と智をつなぐ防災・減災ネットワーク」等の取組について紹介されました。

茅ヶ崎市からは、「防災“も”まちづくり」をテーマとしたワークショップの実施内容や、中学生を対象とした「東京大学加藤孝明研究室附属 防災“も”まちづくり研究所」の発足といった、若い世代の参加に関する工夫等についてもご紹介されました。

横浜・栄防災ボランティアネットワークからは、ボランティア団体だけでなく、地域の福祉施設やケアプラザ等も巻き込んだ「要支援者と連携できる体制」を構築した経緯や、ニーズ票を用いたボランティアセンターの対応方法等についてご紹介されました。


<ワークショップ 「起こそう!防災×化学反応」>

ワークショップでは、参加者の方々を、それぞれの所属や関心事ごとにグループ分けし、「自分達の領域の防災活動を活性化させるために何が必要か」、「どのような分野の方と交流すれば良いか」、「交流によってどのような化学反応が生まれるか」の3つのテーマについてディスカッションがなされました。
さらに、ディスカッション内容をポスターにしていただき、会場全体でポスターセッションも実施しました。
ワークショップの講評については、次の通りです。

名古屋大学減災連携研究センター教授・センター長:福和伸夫先生

ワークショップを見ていて、大きな声の人がいる所は、他の人が静かになる傾向がある。それはそれで一つのアイディアにまとまっていく良さを感じた。ニコニコしているところは、和気あいあいと議論が進んだ。キャリアのある人は極めて上手に議論を進めていたが、全く化学反応がなかった。
化学反応というテーマのワークショップだったが、あるグループから「防災活動の発酵」というキーワードが出てきたのが良かった。「発想の転換」という新しい化学反応をよく作ってくれた。
また、別のグループの「ハリケーンを起こす」というキャッチフレーズも良い。人を巻き込みながら、悪いことを吹き飛ばす、かき乱すということも重要である。
さらに「ばか者、若者、よそ者を巻き込む」いうキャッチフレーズも非常に良かった。新しい化学反応が起こる可能性を感じた内容だった。

明治大学理工学部建築学科 教授:山本俊哉先生

それぞれのグループが限られた時間の中で、様々なジャンルの方が「発酵」していくような議論をされていた。
「福祉」がテーマのチームの発表内容が特に気になった。福祉領域では、課題が山積しているが、まずは、自分たちが助からなければいけないということであった。その上で、要援護者を支援するのは大変なことということを感じた。
議論するメンバーの中に、障がい者の方が入っていると、考え方も変わってきたと思われる。色々な方が参加すると、さらに多様な議論が生まれてきたと思う。

内閣府 政策統括官(防災担当)付参事官:佐谷説子氏

誰と連携したいかということに関しては、多くのグループが同じで、ありとあらゆるセクターが挙げられていた。特定のセクターというよりは、あらゆる人とつながりたいということを感じた。
「インクルーシブ防災」とは、誰も取り残さないことを意味するが、参加者もインクルーシブであることは共通である。
また、企業、福祉のグループの発表を聞いて、BCPの重要性を考えた。取組内容を他社と共有することで、さらに実効性のあるBCPが生まれると感じ、真面目な問題として考えなければならない。
「顔の見える」情報が重要であるという意見も出ていた。個人名のある情報を発信できるのが「TEAM防災ジャパン」である。非常に良い議論を聞かせていただいたので、多くの方に共有していきたい。

東京大学生産技術研究所 准教授:加藤孝明先生

ワークショップで、違う属性の方の意見も聞けて、刺激を受けたと思う。地域に戻っても、忘れないようにしていただきたい。
全体の議論を振り返ると、身近なセクターでも、意外とつながっていないということを感じた。全体を俯瞰できない社会になっている。
防災は「やっているふり感」をだすと、低いレベルで安定してしまうという性質がり、低位安定しがちなものだと思っている。そのため、常に高いところにインパクトを与えることが重要であり、そのことを議論しているグループもあった。
また、女性や子どもの話があがっていたが、違うものを取り込んだり、一緒に活動したりすることで、新たな発見がある。1+1は2ではなく、2以上になる。常に自分と違うものと連携していく習慣を身に付けることが重要である。


<TEAM防災ジャパン湘南宣言 2019>

GDPの4割を失う国難だった関東大震災でダメージを受けながら、「減災や助け合いは人が出来ること」という思いのもとで復興をしてきた湘南・茅ヶ崎に集まった私たち。この地への愛着を持った人たちが、地震災害や延焼火災にとても弱い地域との自覚のもとで、地元自治体や専門家らにも支えられた多様な取り組みを進めてきたことを共有しました。
災害被害を軽減する国民運動から始まったTEAM防災ジャパンの趣旨に賛同して集まった私たちは、それぞれが行っている地域に根付いた「土」の活動、そこを育てる「水」の活動、そこに刺激を与える「風」の活動を、互いに知って共に悩みました。
そして、そこでの化学反応を新たなエネルギーとし、「市民先行、行政後追い」の言葉のごとく、地域コミュニティから始まる地域防災の力を高めるために、楽しく工夫しながら、次のような活動を行っていくことを宣言します。

私たちは、地域や福祉、教育、企業、まちづくり、NPOなど、それぞれの分野の課題を広く共有して新たな課題を見つけ、分野を超えた化学反応を起こします。

私たちは、多様な分野や世代、専門性に閉じこもらずに、楽しく、美味しく交流する場を持ち、人のつながりを生かして、化学反応や発酵を起こし続け、高い目標を忘れずに、誰も取り残さない防災の実現を目指します。

2019年2月2日

「TEAM防災ジャパンオフラインミーティングin湘南~湘南で発見しよう!防災×化学反応~」
参加者一同