特集
平成28年度『津波防災の日』啓発イベント「東日本大震災の教訓を未来へ ─いのちを守る防災教育の挑戦─」
2016年11月5日は「津波防災の日」であると同時に、制定後初の「世界津波の日」。これに合わせて、東京・高知の2会場を中継し、平成28年度『津波防災の日』啓発イベント「東日本大震災の教訓を未来へ─いのちを守る防災教育の挑戦─」が開催されました。ご当地キャラクターによる「津波防災ひろめ隊」らも両会場に登場し、観客席にはキャラクターのファンの姿も見られ、津波防災の広がりを感じさせました。
第1部は「交流セッション」と題して、東京会場には釜石市の中学生が、高知会場では地元黒潮町の2つの中学校の生徒が登壇し、それぞれの取り組みを発表しました。第2部は、東北大学 災害科学国際研究所所長の今村文彦教授による基調講演のあと、スペシャルゲストを招いての「トークセッション」が行われました。主な発言を中心に当日の模様をお届けします。
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平成28年度『津波防災の日』啓発イベント
「東日本大震災の教訓を未来へ ─いのちを守る防災教育の挑戦─」
◆オープニング・主催者挨拶
「津波防災ひろめ隊」が出演する「津波防災啓発動画」の上映後、東京会場には、ご当地キャラクターのふなっしー、ちっちゃいおっさん、くまモン、きいちゃんが、高知会場には高知県のキャラクター・しんじょう君と、登壇予定の黒潮町の中学生や群馬大学の片田敏孝教授が登場し、津波防災の日だけでなく、4月の熊本地震を受けて各地で復興支援の活動をするキャラクターたちの活躍ぶりも紹介され、続いて松本洋平副大臣(内閣府防災担当)が主催者挨拶を述べました。
「大きな地震がおこったら・・・。津波〜っ!? 高いところへ!」【90秒版】
◆第1部「交流セッション」
釜石市・黒潮町の中学生の防災教育への取り組み
南海トラフ巨大地震に関する解説に続いて、釜石市・黒潮町それぞれの取り組みがVTRで紹介されました。東日本大震災の際、小中学生による主体的・実践的な避難行動を可能にした釜石市の防災教育はどのようなものだったのか。一方、南海トラフ巨大地震によって最大34.4mの津波高という予想が発表され、一時は住民が避難の意思を失ってしまった黒潮町が、一転して犠牲者ゼロをめざすようになった町ぐるみの取り組み。いずれも交流セッションの前提となる事実で、イベントを機会に津波防災を考える人に周知され、共有されることが望まれます。
続いて、釜石中学校、黒潮町の佐賀中学校、大方中学校の生徒から発表がありました。
[釜石中学校の発表]
釜石中学校の中学3年生4名は、小学生だった東日本大震災の当時を振り返りながらその当日のこと、「津波てんでんこ」の教えに従って逃げたこと、家族がばらばらで落ち合えなかったこと、避難所での生活を語り、現在の学校での防災教育について、各学年ごとにどのおゆなカリキュラムが組まれているか説明しました。
◆群馬大学・片田教授講評(要旨)
「辛い体験をしたことをこの次の災害に、必ず役立てるんだという思いで実践していること、先人の思いを伝えようとしていること、小さな子供やお年寄りのことまで考えているのが素晴らしい。大人になったら釜石に住むことのお作法、自分の子供にも引き継いでいってほしいと思います」
[黒潮町・大方中学校の発表]
現在2年生の防災学習では、昨年度は防災マップをつくり、各地域を回って避難タワーや防災倉庫の位置や数、標高、安全な避難経路などを調べ、今年度は犠牲者ゼロを目指すために班ごとに計画を考えたそうです。現在3年生の学年では昨年度「10年後の黒潮町」を構想し、すべての住宅を高台に移す案やその実現の難しさなどを検討し、今年度は「災害後自分たちにできること」というテーマで避難所での助け合いなどを話し合ったそうです。
[黒潮町・佐賀中学校の発表]
佐賀中学校では、まず持ち出し袋の取り組みを紹介しました。入学時に空の袋を持ち帰り、各自が必要なものを入れて最終避難場所の倉庫に保管しているそうです。袋の中身は各自が考えるので、水や食料を入れる人、いろいろな目的に使えるからとトイレットペーパーを入れる人、ライトを入れる人、タオル類を入れる人など違うのが特徴です。防災袋をつくる際に家族と避難場所や集合場所を再確認するなどの良い機会になっていると指摘していました。
◆群馬大学・片田教授講評(要旨)
「黒潮町は津波高34.4mという気持ちがくじけそうな大きな想定が出たが、中学生が絶対犠牲者をゼロにするんだと、お年寄りのこと小さな子供たちのことも考えて頑張ってくれています。釜石のみんなが一生懸命逃げて、あの大津波でも生き残れるんだと示して勇気をくれたことにもお礼を言いたい。取り組みが全国各地に広がりつつあることを嬉しく思います」
東京・高知の両会場には再び「津波防災ひろめ隊」が登場し、高知会場には新たにご当地キャラクター・かつばあも加わり、両会場の中学生同士のエールの交換や記念撮影を終えて第一部の終了となりました。
◆第2部「基調講演・トークセッション」
いのちを守る防災教育の挑戦
第2部の冒頭の基調講演で、東北大学 災害科学国際研究所(IRIDeS)所長の今村文彦教授は3.11とはどのような災害であったかを、IRIDeSの最新研究の動画などを交えて示し、そこからどのような教訓が導き出されるかを解説しました。
◆基調講演
3.11に起きた地震はどのような地震だったのか。解析に基づき、当時の津波の挙動を再現したCG動画とともに解説。また、津波では浸水だけでなく火災が起きた写真を示しつつ、津波に対する防火対策はまだ不十分であることを指摘しました。さらに、「1本松」で知られる陸前高田が津波によってどのような被害を受けたかをスーパーコンピュータで再現した動画で示し、土砂や泥を削って地形を侵食し、地形さえ変えてしまった津波の破壊力を伝えました。
3.11では、過去400年に三陸地方で起きた地震のうち、異なる3タイプの地震が同時に発生。津波による被害に加え原発事故も起きるなど、想定外の事態が起きたことを指摘し、これを教訓に、津波防災の日・世界津波の日で津波について世界で一緒に考える防災教育の必要性を訴えました。インド洋津波の際、たまたま地震津波について学んだばかりだったイギリス人の少女がビーチにいた100人の命を救ったエピソードは、まさに知識が命を救った事例であったと紹介しました。
「我々も地震津波についてもっと知っていただくため、過去400年間の津波を評価し確認できるホームページを立ち上げました」として、津波はよく知られる日本やアジアだけでなく、南北アメリカ・ヨーロッパなど世界中で起きていることも指摘しました。また、日本についても、熊本地震を念頭に、400年前の慶長の時代にも沿岸部の海溝地震と内陸地震が日本の東西で交互に起きた例があることを紹介。
南海トラフ巨大地震が最大M9と想定した際の津波について「どの時間でどこまで到達するのか情報を提供しているので、自分の地域だけでなく仕事などの移動で訪れる場所も含め確認し、いざという時は避難を心がけていただきたいと思っています」と締めくくりました。
関連リンク:東北大学プレスリリース
世界津波の日に、グローバル津波評価(過去400年間)の研究成果を発表
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/10/press20161030-01.html
◆トークセッション
元釜石市消防防災課長の末永正志さん、東日本際震災当時は中学生で、現在は群馬大学で学ぶ小笠原舞さん、東京都民を代表して女優で作家の中江有里さんと、東北大学の今村教授によるトークセッションが行われました。最初に末永さん、小笠原さんからプレゼンテーションがありました。
[末永正志さんのプレゼンテーション(要旨)]
平成17年、教員にアンケートを取ったところ、津波防止に関する知識不足、防災教育に当てる時間がないとの回答があり、平成20年に自ら手を挙げ学校での防災教育と地域でのワークショップの2本立てで取り組み始めた。釜石小学校の事例はすばらしく「現代版・津波てんでんこ」と呼んでいる。大津波でも犠牲者ゼロだったのは防災教育のたまものであり、決して偶発的な奇跡などではなかった。一方、1400人の死者行方不明者を出した鵜住居地区の被害状況をハザードマップと重ねると、想定の外側に犠牲者が多い。外側の人は「安全マップ」だと誤解し「うちには津波は来ないだろう」と逃げ遅れた。特に大人向けの防災教育の難しさを感じる。
[小笠原舞さんのプレゼンテーション(要旨)]
釜石東中学校の2年生の時、東日本大震災を経験。小学生の時に群馬大学片田教授の津波に関する講演を聞き、自分の命は自分で守ること、事前に備えることの重要性を学んだ。中学校では、近くの小学校と定期的に合同避難訓練を行い、避難先の確認だけでなく自分で判断して避難する力が身についた。3月11日、率先避難者となり、訓練通りに約500メートル離れた避難所へ行ったが、生徒が危険を察しさらに高台へ避難して5分後、3メートルを超える津波がこの建物を襲った。今は群馬大学に進学し、防災に役立つ科目を学んでいる。将来の目標は、地元岩手県に戻り、県職員として防災教育に携わり、津波などの自然災害の犠牲者をゼロにすること。
[トークセッション]
司防災教育の重要性、世代間の意識の差、臨機応変な行動のために必要なもの、などさまざまなテーマについて意見が交わされました。
末永さん:「行方不明者というものがあるが、心配して捜すから行方不明者になるが、もし地域とのコミュニケーションがなかったら誰も捜さないので、いなくなっても行方不明者になれない。だから地域との協同、連携というものは必要です。防災教育と人材育成が大事だが、どうしても一般の住民が最後になってしまう。備えるということを考えると学校、家庭、地域、行政、企業と一貫して行うことが重要。あとは教わるのではなく、主体的能動的に学習するという姿勢を身につけるということです」
小笠原さん:「震災を経験し、災害に関する知識を深めることはもちろん、事前に備えることの重要性、そして防災教育の大切さを強く実感しました。東日本大震災のようにつらい思いを繰り返さないためにも災害に対する危機意識の希薄化を防ぎ、自分の命は自分で守れるように事前に備えることが必要だと思います。災害による犠牲者をゼロにする目標を達成するためにもこれからもしっかりと勉強して行きたいと思います」
中江さん:「自分自身で判断し行動をとることの重要性を身にしみて感じました。自分が釜石の中学生の立場で本当にそれができるのか、正直自信がありません。まず自分の命を守るということが、互いの幸せにつながるという信頼関係を日常の中で築くことが大事。いつどこで起こるかわからない、これは自分のことなんだという意識を高め、自分の中の段階みたいなものをしっかりと確認しながらそれぞれに考えて行くのが、大切なのかなと」
今村教授:「首都直下も、南海トラフも3.11の規模を上回るということを知ってほしい。それは、地震、津波の規模が同じあっても、地域に住む人の数が全然違うから。揺れている間に津波が来てしまう場所もある。5年7ヶ月前の震災は今までに人類が経験していないものだったことをぜひ思い出してほしい。どうしても記憶は薄れるが、年1回、こういう機会に大切なことを思い出すことが、唯一、次への災害への備えや意識の維持になる。我々の知らないことが必ず将来起こると思って、その時にぜひ生き残り、生き抜き、ともに生きるということが最も大切です」